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茅野市に映画製作のための別荘を建てて数々の名作を残した小津安二郎は、日本の映画監督の中で、国際的に最大級の評価を受けている。キャメラマンが皆腰を痛めてしまうといわれる低いアングルが小津の特色でもあり、今でも世界中の映画人が見本にしているという。また、淡々と描く日常の描写や人間模様は、ヨーロッパの映画監督たちを魅了し、小津の感性がカンヌ映画祭やベネチア映画祭など、世界有数の映画祭の評価基準に影響を与えているといわれる。
この小津監督が、上田でトーキー映画第一作「一人息子」をロケーション撮影したことはあまり知られていない。1936年公開の「一人息子」は、後の小津の代表作「東京物語」や「秋刀魚の味」などに通じる独特な世界を描くきっかけになり、今でも映画ファンには、バイブル的評価を受けている。上田のロケ場所は、旧笠原製糸工場、旧市街地、そして現在も当時の姿をとどめている旧西塩田小学校などだ。旧西塩田小学校の校庭にあるバックネット側から独鈷山を背景にした木造の南校舎の姿が「一人息子」の冒頭シーンを飾っている。木造校舎と独特の景観を見せる独鈷山の取り合わせは、ここにしかない正にすばらしい調和として、日本映画史に刻みつけられているのだろう。この映画には、こうした上田の風景のほか、蚕糸業が全盛期から衰退の翳を見せる時代背景や当時の庶民の生活が描かれ、こうした時代を基に人間の心や親子の関わりなどを表現した名作に仕上がっている。
映画関係の友人が言った「小津がロケしたということは、小津が上田のまちをロケハンしたということだよ」。何を今さら当り前のことを言うのかと思ったら、「上田のまちを小津の目で見て、小津の感性が判断して、小津が自作の舞台にしたということは、世界の映画界にわずかながらでも上田の風景や人情が影響を与えているかもしれないということだよ」と真剣な顔をしていた。
映画監督がロケ場所に選ぶということは、自分の作品をつくるための器を選ぶようなものだ。上田は、ベネチア映画祭でグランプリを受賞した日本の4人の監督の内、小津安二郎監督・黒澤明監督・今村昌平監督の3人がロケし、今夏、4人目の北野武監督がロケを予定している。ベネチアを制した日本の映画監督は今のところ4人しかいないのだから、これで、名実ともに「映画のまち上田」と呼べるかもしれない。 |